クリニック(診療所)の経営・会計・税務の知識と実務
T.開業にあたっての基本知識

質問1
開業するにあたり、まず一番にするべき届け出は?

回答1
診療所開設届けです。
開業にあたり、診療を開始してから、10日以内に提出する必要があります。
ただし、保険医療機関指定申請を行う場合は、その診療開始の前に行う必要がありますので、注意するようにしてください。
届出先は、保健所ですが、必ずしも最寄りの保健所とは限らないので、どの保険所が該当するのか確認するようにしましょう。
この開設届出以外に診療に関する届出で必要なものは、以下のものがあります。
●保険医療機関指定申請
●診療所用エックス線装置備付届
●公費負担医療関連の届出
●労災保険指定申請
自費診療以外の保険診療を行うのであれば、保険医療機関指定申請を所轄社会保険事務所や社会保険事務局に提出しなければなりません。
提出期限は上記でも示したように各都道府県の指定日(保険診療を開始できる日)を社会保険事務所や社会保険事務局に確認の上、開業日(開業と同時に保険診療を開始する場合は診療開始日になる。)よりも前の指定日までに申請する必要があります。
エックス線装置を設置する場合には、診療用エックス線装置備付届を設置から10日以内に所轄保健所に提出します。
公費負担医療関連の届出は、公費負担医療制度より所轄が異なり、都道府県や市区町村によって、制度自体にばらつきがありますので、事前に確認してください。地域によっては、医師会が一括して届出または売却済みであり、医師会の会員となった時点で自動的に摘要を受けられることもあります。
労災保険指定申請は、労災患者を診察する可能性の高い外科や整形外科などの診療所では、指定を受けるほうがよいでしょう。提出先は各都道府県の労働局が原則ですが、神奈川県では最寄りの労働基準監督署で受付、また都道府県医師会や地区医師会が窓口となる場合もあります。
提出期限に定めは設けられていませんが、開業後半年から1年間の実績を重ねた後でないと申請書を受理されない場合もあるようです。また、指定は、申請所を受理してから半年後から1年後になります。

質問2
医師会へはどのように加入するのか?

回答2
開業予定地の地区医師会に入会の意思を伝え、入会書類を受け取る時に、地域の新規入会担当の役員を紹介してもらい、その人に入会の挨拶をします。
医師会の入会は任意であるため、入会しないと開業できないということではありません。
医師会に入会することには、以下のようなメリット、デメリットがありますので、十分に把握して、入会するかどうかを決めるようにしてください。
[メリット]
●母体保護法指定医療機関の指定 (婦人科や産婦人科であれば、医師会の入会必須)
●健診の受託 (医師会が支払い窓口であるため、無料健診を受託する場合は必須)
●医師賠償責任保険
●校医の優先指定
●近隣医師との付き合い
[デメリット]
●休日当番医
●医師会の加入費用

質問3
職員を雇用したが、どのような届け出が必要になるのか?

回答3
労務に関する届出として、労働保険関係成立届、雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届、健康保険加入届、年金の届出があります。また、税務に関する届出として、給与支払事務所等の開設届出書が必要になります。
労働保険は労災保険と雇用保険(いわゆる失業保険)に大別されます。従業員を1人以上雇用すると加入義務が生じ、パートでも週20時間以上、かつ1年以上雇用関係が続くと見込まれる場合には適用されるので、注意してください。
労災保険として、労働保険関係成立届を最寄りの労働基準監督署に採用後10日以内に提出します。その後、雇用保険関係の届出として、同じく採用後10日以内に雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を最寄りのハローワークに提出することになります。
従業員5人未満の個人事業主の場合は、国民健康保険と国民年金への加入が基本です。ただし、医師会に加入する場合は、医師国民健康保険に加入できます。一方、従業員が5人以上になったときに速やかに健康保険・厚生年金新規適用事業所現況届を所轄の社会保険事務所に提出する必要があります。

質問4
新規開業の場合、税務署に提出すべき届出にはどのようなものがあるか?

回答4
個人事業の開廃業等届出書(開業届出書)と給与支払事務所等の開設届出書をいづれも開業から1ヵ月以内に税務署に提出します。
また、任意選択の届出として、青色申告承認申請書があります。
所得税の申告には青色申告と白色申告の2種類があります。白色申告では、様々な特典を受けることはできませんが、帳簿を作成する必要がないというメリットがあります。
一方、青色申告では複式簿記による帳簿の作成と保存が義務付けられていますが、節税のために以下の特典が受けられることになっています。
【特典】
青色事業専従者給与の必要経費算入
青色申告特別控除額(最高65万円)を事業所得から控除できる。
純損失の繰越控除(赤字を翌年以降3年間繰り越すことができる。)
中小企業者の少額減価償却資産の必要経費算入(取得価額30万円未満)
医療機器の特別償却
青色申告承認申請書は開業の日から2ヵ月以内に税務署に提出します。同様に開業の日から2ヵ月以内に青色事業専従者給与に関する届出書も提出することにより、同一生計親族に対して支払った給与を青色事業専従者給与として必要経費に算入することが可能となります。この場合には以下の3要件を満たす必要があります。
【3要件】
1.届出
青色専従者給与に関する届出書を提出期限内に提出
2.勤務形態
従事可能期間の2分の1超勤務→勤務実態を示す資料を残す必要あり
3.支給額
給与額は他の職員とのバランスを考慮

質問5
消費税は開業初年度から納めなければならないのか?

回答5
開業初年度は納税義務はありません。開業初年度の自費診療などの課税売上高が1千万円を超えるような場合には翌々年から消費税の納税義務が発生することになります。
納付税額は、以下の算式より算定します。
【原則】
納付税額=仮受消費税(課税売上の5%)−仮払消費税(課税仕入の5%)
【特例(簡易課税制度)】
納付税額=仮受消費税×50%
上記の算式の原則を選択し、かつ仮払消費税が仮受消費税を超える場合には還付税額が発生しますが、開業初年度は納税義務がないため還付を受けるためには、あえて課税事業者を選択しなければなりません。
開業年の12月31日までに、消費税課税事業者選択届出書を提出することにより、課税事業者になることができます。ただし、課税事業者を選択すると、最低2年間継続適用となりますので、還付税額と今後2年間の納税見込額を試算し比較するようにしてください。

質問6
開業医と勤務医の違いは?

回答6
勤務医は雇用される側として給与所得、開業医は雇用する側として事業所得と所得の区分が異なります。これにより、税務関係の手続き、申告納付が必要になります。
勤務医の収入は、勤務先より支払われ、その支払の際支払者が所得税を概算額で源泉徴収し、本人に代わり納付する源泉徴収制度が適用されます。
その後、年末調整や確定申告により過不足額を精算することになります。また、個人住民税も源泉所得税と同様に、特別徴収として給与から天引きされます。
一方、個人で開業医として独立すれば、自ら計算して申告納付し、また従業員を雇用すれば、毎月源泉徴収を行い、年末調整もしなければなりませんし、源泉所得税と個人住民税以外に個人事業税と消費税の納税義務が生じることになります。
注意しなければならないのは、開業年の確定申告です。開業年は、勤務医時代の給与所得と開業医の事業所得の両方が発生し、また勤務医先を退職したことにより退職金を支給された場合は、退職所得が発生します。こららの所得については、開業年の翌年の3月15日までに税務署に確定申告書を提出しなければなりません。
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